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マケラの「第9」について、もう一点、補足します。
昨日触れたお友達のメールの後半です。
☆☆☆☆☆☆
ちなみにこの第九聴いた長男は
ベーレンライター版?を使ってるけど
アバドみたいに不協和音を直してる
と言っていました。
ほんとにそうなのか
わたしにはちっともわかりませーん😅
マケラって今年来日するんですね。
ちょっと興味湧きましたが
高い席しか残ってない😆
☆☆☆☆☆☆
ベートーヴェンのように昔に生きた作曲家の作品を演奏する場合、どうしても楽譜の版の問題が起こります。
オリジナルの直筆楽譜(これだって何種類もヴァージョンがあることも)を原典として、繰り返し出版・再版を経て、いくつもの内容の異なる楽譜が存在します。
楽譜の版(エディション)の相違が演奏に大きく影響するので、指揮者による楽曲の研究は楽譜の選択から始まるわけです。
1980年代以降に楽譜の考証は飛躍的に進み、どんどん変化しているので、したがって演奏者による表現の差も拡大しています。
今、僕たちが普通に手に入れることのできるベートーヴェン交響曲第9番「合唱付き」のミニチュア・スコアは4種類。
・音楽之友社版(ブライトコプフ旧版が底本1948年)
・ベーレンライター版(1999年)
・ブライトコプフ新版(2005年)
・全音楽譜出版社版(ブライトコプフ旧版底本2015年)
オーケストラが使用するパート譜や指揮者が使う大判のスコアでは、これらに加えて、ヘンレ版が出版されています。
1990年代にベーレンライター社が批判校訂版を出版し、さらに21世紀に入るとブライトコプフが新版を世に出して、この問題は大きな転換期を迎えました。
この新しい校訂版は、編集者である音楽学者がベートーヴェンの自筆スコアや各地に残るパート譜へのベートーヴェンの指示による書き込みなどを丹念に拾い出して検証し、反映させたものですが、資料の選択、読み方の差で違いがたくさん出てきています。
メールの引用のなかで、「長男」氏が言っているベーレンライター版は、こんな感じの画期的研究に基づいています。
イギリスの音楽学者・指揮者のジョナサン・デル・マーがこうした新旧様々な資料に照らし合わせて問題点を究明し、この研究は楽譜化されて1996年にベーレンライター社から出版された。
自筆スコアから誤まって伝えられてきた音が元通りに直されたため、ショッキングに聴こえる箇所がいくつもあり大いに話題を呼んだが、ベートーヴェンの書きたかった音形を追求した結果、旧全集などの資料にもない音形が数多く表れている点もこの版の特徴である。
まあ、間違って流通してしまったんだから、直しましょうよ、というわけですが、旧版で何十年も聴いてきた僕のような人には、ちょっとびっくり、みたいな事態が起こるのです。
全然違う曲に聴こえる、とまでは言わないけどね。
ちなみに、僕が今持ってるスコアはこれ。
ポケット版ではなくて、かなり大きいです。
第1楽章のコーダの部分。
旧版では弦、ホルン、トランペットのリズムは同じで、ティンパニだけスラーがなく、刻み続ける箇所があり、ベーレンライター版とブライトコプフ新版ではトランペットはティンパニと同じく刻み続けるようにスラーが削除されている。これは聞いていて誰でもすぐにわかる、そうですが。
僕はよく分からないな。耳が駄目なのか!
ベーレンライター版によるモダン楽器による初のベートーヴェン交響曲全集というふれこみで発売された全集中の一枚。
この全集が発売になった当時は、未だベーレンライター版は出版されていませんでした。
このジンマンの演奏が、あまりにも衝撃的な内容であったため、これからのベートーヴェン演奏は革命的な変化を遂げるのでは、大変評判となりました。
しかし実際にベーレンライター版が出版されると、なんとジンマンはベーレンライター版のとおりに演奏していないばかりではなく、そもそもベーレンライター版を参照して録音していない、という事実が判明してしまいました。
ちょっと癖が強すぎのジンマン盤ですが、一度全曲通して聴いてみないとね。
この演奏についての一般的意見は、こんな感じ。
全集の最後の録音となった第九だけはベーレンライター版をちゃんと参照したようです。しかし必ずしも全てベーレンライター版の指示通りという訳ではなく、各パートを部分的に極端に刈り込み室内楽風の効果を上げたり、第2楽章トリオ終結部のヴァイオリンのタイをブライトコップ版のままといった具合です。第2楽章のトリオ部分がスケルツォ部分より速いのと第4楽章のマーチのテンポはデルマールの指示にほぼ忠実。ホルンのシンコペーションもベーレンライター版の指示に従っています。ユニークな部分としては、ティンパニが小型で軽い響きであることと、マーチ部分ではシンバルをバチで叩かせて、トルコ行進曲風の面白い響きを聴かせていました。全体的に速めのテンポなのは、ベーレンライター版や古楽器による演奏の共通した特徴ですが、モダン楽器を用いて古楽器のような透明な響きを実現しているのは、ジンマンの力量の確かさだと思います。
ジンマンの完全版ファイルが見つからなかったので、ちょっと極端ですが、昔の楽器(のレプリカ?)と当時の演奏法を復元してやっている例(ピリオド演奏といいます)をひとつ挙げます。
金管はバルヴないし、弦はノンヴィヴだし、譜面はベーレンライター版なんだろうなあ。よくわからないけど。
あと、今日の話題の極北にある演奏をひとつ。
あきらかなように、全体のテンポ感も、時代や指揮者個人によって、ずいぶん異なります。
フェリックス・ヴァインガルトナーの1935年の録音は62分程度
アルトゥーロ・トスカニーニの1939年の録音は60分強
ヴィルヘルム・フルトヴェングラーのバイロイト音楽祭での録音は75分弱
ルネ・レイボヴィッツ、ヘルマン・シェルヘンは70分前後
カール・ベーム最晩年の1980年に録音した演奏は78分を超える
(ちなみに、この音源は非正規に残っていて、僥倖です)
デイヴィッド・ジンマンの1999年ベーレンライター版によるCD初録音が58分45秒
ベンジャミン・ザンダー指揮ボストン・フィルハーモニー管弦楽団は全曲で57分51秒
同じくザンダーの指揮によってフィルハーモニア管弦楽団は全曲で58分37秒
リスチャン・ヤルヴィ指揮ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団 59分44秒(マーラー編曲版)
マケラの演奏は、だいたい測ってみたら、65分です。
お時間と興味のあるかたは、もう一度マケラに戻って、聴いてみるのもよいのでは。