にこたろう読書室の日乗

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0630 起床 曇 【ある昭和の7つの映像・番外編】④ 『張込み』は鉄オタ映画だった? 昭和30年代の鉄道風景を映した名作。(前編)

血圧値 131/80/67 酸素飽和度 98% 体温 36.1℃ 体重 67.4キロ 運勢 The Emperor

 

わずか30ページ足らずの短編小説。

それが映画1本、テレビドラマ12本に映像化されています。

松本清張『張込み』。

地味な作品ですが、じつは根強い人気を誇る名作です。

 

「映画」のことを書くのですが、原作のほうを僕は読んだことなかったので、近所の図書館で借りました。

 

『小説新潮』掲載の「張込み」

(イメージ)

 

これは緻密な推理があるわけでもなく、だいどんでんもありません。

「警察小説」なのかなあ。

「昭和の恋愛もの」というべきか。

 

そして、映画のほうはたぶん「鉄オタ」ものなんじゃないかなあ。

 

 

監督 野村芳太郎 脚本 橋本忍

出演者 大木実 高峰秀子 田村高廣 宮口精二 高千穂ひづる

製作 1958年

 

この「映画1本」というのが、なかなかの出来で、名作と数える人もいるくらい。

松本清張、橋本忍、野村芳太郎という、後に『ゼロの焦点』(1961年)や『砂の器』(1974年)といった傑作群を世に送り出すことになる「黄金のトライアングル」が初めて結集した記念碑的な作品。

 

美しいモノクロームで、1950年代の「東京」「佐賀」「遠距離列車」の風景が描かれています。

「事件」そのものはまったく描かれませんので、ミステリー要素は皆無です。

 

東京(原作では目黒)で発生した質屋殺しの容疑者・石井(田村高廣)を追うため、警視庁の下岡(宮口精二)と柚木(大木実)の両刑事は夜行列車で九州の佐賀へと向かう。

石井がかつての恋人であり、現在は佐賀で銀行員の後妻として暮らすさだ子(高峰秀子)に接触すると睨んだためだ。

灼熱の太陽が照りつける真夏の日々。刑事たちはさだ子の家の向かいにある安宿の一室から、息詰まるような張り込みを開始する。(ただ旅館の2階から覗いているだけですが)

家事に追われ、変化のない単調な日々を送るさだ子を監視し続けるうちに、柚木刑事の心には彼女に対するある種の共感と哀愁が芽生え始める。

そして張り込みから一週間後、ついに石井がさだ子の前に姿を現し、事態は急展開を迎える——。

 

「あらすじ」としてはこれだけ。

今回原作小説を読んでみたけど、簡潔・淡泊・即物的なルポルタージュみたいな文章。

原作がこれだから「映画1本、ドラマが12本」ていう「応用」が効くんだと思います。監督や脚本がやる気を出せる、という感じ。

 

観ると分かりますが、冒頭からともかく「暑い」。

刑事だから熱い、のではないですよ。

列車の中が、熱中症になりそうなくらい、暑い。

 

東京駅で列車に乗り過ごし(新聞記者に捕まらないように)、横浜駅から満員の夜行列車に飛び乗り、東海道線、山陽本線を下って佐賀市へと向かう導入部。

 

 

当時は新幹線はなく「鹿児島行き急行」で、電気機関車と蒸気機関車を区間ごとに付け替えて、佐賀まで25時間くらいの強行軍。

 

飛び乗るシーンは1発勝負で、NGだったらあくる日の同便でテイクツーの覚悟だったそうですが、うまく撮れました。

 

 

博多行きの急行「筑紫」の走行中の車両を用いて撮影を行ったそうです。

ロケ隊は「筑紫」の最後部に撮影用の1両を借り切って増結。

ロケ隊スタッフをそのまま演者として動員。

 

 

東海道線区間は電化です。

大阪を過ぎると蒸気機関車が牽引。

(EF58に牽かれて淀川らしきを渡り、C59形蒸機に替わって山陽本線を走ります)

 

 

シリアルナンバーが違うので、別撮りですね。

(山陽本線の戸田~豊海らしき景勝区間)

 

列車特有の不規則な揺れ、窓外を流れる風景、乗客たちの密集した生活感、機関車が吐き出す黒煙。

新幹線が開通する以前の、高度経済成長前夜における本物の日本の鉄道風景を克明に記録した歴史的資料としても興味深いですね。

 

 

ともかく、暑い。

客車の天井には扇風機が回っている。乗客は、暑さのせいでランニングシャツ姿。

 

 

やっと席に座れました。

窓の外の瀬戸内海の景色は実写です。

なんたって車両借り切ってますから気合が入ってます。

 

 

関門海峡越えて博多駅へ。

佐賀は遠い。

 

画像

 

関門トンネル通過時は、機関車換装。EF10形関門用ですね。

 

 

博多駅のプラットホームの情景。良い感じです。

各場面に見られる、横長のモノクロシネマスコープ(パテントの関係で松竹グランドスコープと呼んでいる)の画角(横縦比2.35:1)を生かしたカメラが秀逸ですね。

野村さんは「エデンの東」とかを研究したらしい。

 

そしてついに「佐賀駅」にゴール。

下岡(大木実)が「(佐賀で)さあ張込みだ」と声を上げると、「張込み」のタイトルが現れ、下岡と柚木の目のアップや、出演者の名前が出る。

画面いっぱいに「張込み」のタイトルが現れるまで、延々と列車内外の光景を描き続けるこのオープニング、なんと10数分。これでも最終的にはかなりカットしてあるらしい。

 

これは驚きの鉄オタ的執念。

誰がやりたがったんだろう。お金もかかるでしょうに。

 

清張はたしかに鉄道好きだと思うけど、これにはちょっとびっくり。

原作ではたった数行の描写だし、物語の本筋にはほとんど関係がないし。

でもこの演出のこだわりはとても面白いですね。

 

今思ったのですが、僕はひょっとすると川又昻カメラマンの趣味ではないか、と想像しています。

野村芳太郎監督とのコンビは59作品におよびますが、数々の鉄道シーンが思いだされます。

『張込み』の時に彼はBチームのカメラなんだけど、それこそ別撮りの情景シーンを担当しただろうし。

まあ、これは未確認ですが。